[XIV] 脳内でこういう話を作りながら

大井戸の底で大罪喰いを屠った。ものの。
どうやらそろそろ容量オーバーらしい。
ぎゅうぎゅうに押し込められた“光”が隙あらば体を突き破ろうと蠢く。自分の中に、自分ではどうしようもできない何かが存在する。痛みもあるが、それよりもなによりも気持ち悪い。吐きそうだ。
悪阻つわりってこんな感じなのかな?」
「いきなり何だ」
ペンダント居住館の自室には“いつものように”幽霊がいた。部屋変えて欲しい。
「独り言に返事されても困る。て言うかここ、何度も言うけど、かわいい女子の部屋なんだけど」
言いながらタンク用の重装備を床に落として上下インナー姿に。そのままベッドによじ登ってシーツの上を転がる。壁までいって戻ってきて真ん中で大の字になる。帰宅後のルーティーンだ。
ここはわたしの部屋だ。だからわたしの好きなようにするのだ。幽霊が居ようと何だろうと変えるつもりはない。
「俺の知ってる女子は男の目の前で鎧脱がねぇし。そんでそのまま寝ねぇ」
かわいい、の部分は否定しないらしい。ついでに視線は窓の外に向けたままだ。口は悪いが優しい男なのだろう。ドワーフ女子が惚れるのも判る気がする。
幽霊に反論はせず、目を閉じふうと息を吐く。
今回の ID はひどく疲れた。

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赤魔がちょっとアレで。
「次からは DPS 、マトーヤお母さんに入ってもらおっと」
あ、お母さんなら悪阻に効く薬とか知ってるかな? あとで聞いてみようか。

「で、アム・アレーンはどうだった?」
取り戻した夜に目を向けたまま幽霊が訊く。
「古い知り合いに会った」
会って以降のことを幽霊に語る。
「……俺が残された理由もわからず終いか」
ナバスアレンで過去を見た。この世界の英雄達が古い知り合いに力を与える中、幽霊としてそこに立ってる男だけ「まだ消えるべきではない」と滅び行く世界に残された。
そう言えば古い知り合いは何と語ったか ――

どくん、と“光”が暴れた。

油断してるところ不意打ちを食らって、ふえっ !? 等というかわいい声を上げそうになるが、それはなんとか飲み込んだ。危ない。わたしはそういうキャラじゃない。
が、これはちょっとヤバい。痛みから逃れようと身をでたらめによじっていたらベッドから落ちた。その音で幽霊も異変に気付いたようだ。
「おいどうした、大丈夫か…… !?」
問うたところで幽霊には何も出来ない。差し出された手に縋れたら少しは楽だったのだが。
だが、その差し出された手が輝く。光が宿ったようにも、わたしが取り込まんとしたようにも見えた。
正直どう表現すべきか判らないし、幽霊も驚いたようだったが、ともかくそれで体の中の“光”は大人しくなり痛みも吐き気も消えた。はぁ。
「何だったんだ、今の……」
幽霊は情けない顔で自分のうつろな体を見おろし呟く。
思い出した。そうだ。古い知り合いは「ふたつの世界のあなたが」と言った。
「まさか、お前に……?」
幽霊は首を振る。
「いいや、俺はもう英雄なんかじゃないんだ」

部屋の扉がノックされた。
扉に視線を向け、振り返ったときにはもう幽霊は消えていた。

―― やはり、ここまでは問題ないようだ。
となると、時間転移の支点とするのは ――

水晶公との会話のあと、そんな厨二くさい夢をみた。

翌朝、マトーヤお母さんに悪阻の対処法を聞いたところ、エンシェントフレアを返された。とっさにブラックナイトとシャドウウォールで軽減して残り HP 100 だった。マトーヤお母さん怖い。